指輪の話

 

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タマ・チャンは指輪をしている。

 

しかも右手薬指に指輪をしている。

 

だからめちゃくちゃ勘違いされる。

タマ・チャン的には左手薬指じゃなきゃいいだろと思ってつけているのだが本当によく聞かれる。

しかもすぐに聞かれるわけじゃなく少し親しくなった後に「ずっと気になってたんだけどさ……」という雰囲気で聞かれるからかなりの確率でガチだと思われている。

 

単刀直入になんの情緒もなく言えば、別にこれは結婚指輪でもなんでもない。

部活引退の時に作った指輪である。

指輪の内側には最後に演じた役名が刻まれている非常にpreciousな指輪なのである。

 

だから、何か恋バナを期待して指輪について尋ねる人達には申し訳ないが指輪に関するそういう話は何も無い。

でも逆にタマ・チャンにアプローチをかけたい人間にとっては好都合な事実だろう。

指輪を気にするなんて、皆タマ・チャンのことが気になりすぎである。アプローチばかりされてしまって、これだからモテる女は困る。

 

部活引退に際して作った指輪なので、英語劇の同輩全員持っている。

本来は引退時の記念品としてもらう伝統があったのだが、タマ・チャン達の代からなくなってしまった。「え〜?!部活と結婚するのぉ〜〜?!!?」と顧問の先生に言われ、やむ無くその伝統が廃止されたのである。

しかしタマ・チャン達は指輪への憧れが捨てきれず「部活と結婚?してやるよ!」マインドの持ち主が多かったこともあり自分達で勝手に作ったのである。

 

ちなみにタマ・チャンが今している指輪は2代目だ。

大事な指輪のくせになくしやがって、オイ!と言いたいところだが、大切にしていたが故に無くしたのである。財布の中に大切にしまっていたのである。

 

しかし、タマ・チャンはその財布を落とした。

高三の遠足で大はしゃぎしたからである。

高三のくせに遠足なんかで大はしゃぎすな、と皆さん思うだろうがそれはタマ・チャンも思っているから安心して欲しい。

結局その財布は見つからず、その指輪及びキスマイファンクラブの会員証、5000円ほどの現金、全カードを失った。この際現金やカードはどうでもいいから指輪とキスマイの会員証だけ返して欲しい。

 

タマ・チャンはご厚意でもう一度同じ指輪を作っていただいて、それ以来ずっと(かどうかは忘れたがおそらくずっと)指につけている。

 

高校ではもちろん指輪なんて禁止だったからバチバチに校則違反ではあったのだが、ずっとつけていた。高三時代のタマ・チャンが非常に厄介だったこともあり、先生方は黙認してくれていたのかもしれない。優しさである。

 

しかし、この指輪のせいで、もしかしたら新しいバイト先でタマ・チャンはめちゃくちゃ誤解をされているかもしれない。原則指輪禁止なのだが、婚約指輪と結婚指輪だけは許されている。

外し忘れに気付いた時には既に遅し。タマ・チャンは指輪をする人間として認定され許されてしまったのだ。

 

賢い皆さんならお分かりいただけるだろう。

タマ・チャンは既婚者、もしくは婚約者がいる女として認定されてしまったかもしれないのだ。

先輩方はきっと「え?こいつが?」と思っただろうが、デリケートな問題だから万万一の可能性を鑑み、何もおっしゃらなかったのだろう。優しさである。

 

もしかしたら気付いてないかもしれないじゃないか!と思うだろうが、そんなことはない。

タマ・チャンはアピアランスチェックの段階でバチバチに手の平、そして甲を見せているのである。まるで指輪を見せつけるかのように。

 

でも、婚約者と別れたのではないか、とか思われるのは癪なのでそれからずっとつけっぱなしにしている。

そう、タマ・チャンは婚約者がいる女という仮面を被っていかなければならないのである。

 

若干19歳でこんな風貌のくせに婚約者がいる女、怖。