バイト先で傘を馬鹿にされた話

 

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タマ・チャンは塾でバイトをするザ・大学生だ。

 

その日は初回授業の日だった。タマ・チャンの担当教科は数学だ。

めちゃくちゃ緊張していたし直前まで行きたくないと駄々をこねていた。こねにこねた。久しぶりにこねた。

正直のところ数学なんて受験期以外触れていないし別に得意でもなかった。

面接の時に英数国理を教えられるマルチプレイヤーのフリをしたことが仇となった。これが有能ぶった無能に与えられた罰だ。

英語とか国語なら意気揚々とスキップでもしながらバイト先に向かったかもしれない。いや、それはない。盛った。田舎から出てきた女が東京でスキップをするのは相当難しい。

 

なんとか早く到着したものの、周りの年上イケイケ大学生にビビるタマ・チャン。

彼らが座る机に参加することも出来ず椅子がないタマ・チャン。

ただただ不必要に数学の公式を眺めるタマ・チャン。

眺めたところでどの範囲を教えるのかも分からないので参考書を見るふりをしながら虚空間を見つめるタマ・チャン。

 

ついに、事件が起きた。

授業時間が近付き、生徒の皆さんを待っている時だった。

 

「ねえ、あの傘何?w」

「え〜銃刀法違反w」

「誰の?w」

「いや生徒でしょw大学生ではないw」

 

同僚の講師陣が見ていたのは間違いなくタマ・チャンの傘だった。タマ・チャンの傘は刀の形をしている。タマ・チャンは目の前で自分の傘を馬鹿にされたのだった。

 

今思い出しても至極残酷で痛々しい事件だった。苦手な数学を現役生に教えなければならないというプレッシャーに傷心していたところに大切な傘をディスられたタマ・チャンの心中たるや。

泣きっ面に蜂とはまさにこのことではないか。もはや数学苦手なタマ・チャンに傘ディスということわざを作った方がいいと思う。

 

絵に書いたような小馬鹿にされ方だった。きっと彼らはその傘が小学生の悪ふざけだとでも思ったのだろう。

しかしながら、ここでもう一度言おう。何度でも言おう。それは女子大生の傘だ。隣で今貴方達と共に働こうとしている同僚の傘だ。

 

タマ・チャンは悲しかった。そして同時に思った。いや刀の傘見て銃刀法違反いじりはもう使い古されとんねん、と。

もしもう少しだけ彼らにユーモアがあればタマ・チャンの心はそれほど痛まなかったのかもしれない。

 

その傘は確か高二の時だっただろうか、母が買ってきてくれたものだ。

母は、タマ・チャンが前から欲しがっていたことを覚えていて買ってきてくれたのである。そして、タマ・チャンは忠実にその傘を使い続けたのである。なんという親子愛のハートフルお涙頂戴ストーリーか。家族愛がMacBookより薄いタマ・チャンの貴重なエピソードだ。

そしてそれを知らず小馬鹿にした彼らは極悪非道の大悪党ではないか。そう責めそうになる自分がいた。

 

しかし、よく考えて欲しい。刀の傘を持つような女子高生はいない。ましてや女子大生ならなおさらだ。

女子大生が持つような傘ではないことぐらいこちとら重々承知である。なんだよ刀の傘って。正直めちゃくちゃ持ちづらいねん。

 

もしかしたら、普通の女子大生にはならないぞというプライドがタマ・チャンにその傘を持たせたのかもしれない。

もしタマ・チャンにそのプライドがなければカラフルな花達が無作為に羅列された傘をきっとさしていたのだろう。そしてearth music&ecologyの服を身にまといジアレイのタピオカの行列に並んでいたのだろう。

 

授業後、タマ・チャンはそんなことを考えながら、一抹の恥ずかしさを胸にそそくさと帰路へ向かった。

 

残念ながら規約上授業で起きた話を皆さんにお届けすることは出来ない。

私タマ・チャンには生徒の個人情報を保護する義務がある。

お分かりいただけただろうか。

どんなに傘が変であろうと、もうタマ・チャンは立派な塾講師だ。